日本展示学会通信50号(2)

会員投稿

○杉並区を探検し続けて16年(長澤信夫)

知る区ロード探検隊「知る区ロード探検隊」でまちづくり

杉並区のまちづくり推進課が行っている「知る区ロード探検隊」は、すっかり杉並区民に定着したまちづくり運動となっている。1988(昭和63)年から始まり、今年で、16年目。夏休みなどには、区内の公園や神社、児童館などを巡ってスタンプラリーを行う「知る区ロードの日」が行われる。スタンプラリーが行われるのは、杉並区中に整備された東の輪、中央の輪、西の輪という3つの散歩道である。この散歩道に沿いながら、街並みをさまざまな視点から見直して、さまざまな発見をしてゆこうねらいがある。散歩道には、道路に埋められたキャラクター「すぎまるマーク」があり、案内役となっている。交通量が少ない道路を選びながら、杉並区内の歴史的な施設や公園などを結んでいる。
それぞれの輪(散歩道)の拠点となっているのは、六角鬼丈氏が設計した4つのユニークな公園である。自然界の音を聴くための環境オブジェがある「みみのオアシス」、においのオブジェがある「はなのオアシス」、タイムカプセルを埋めた広場と時計のオブジェがある「ときのオアシス」、さまざまな素材で作られた道を踏みしめる「はだしのオアシス」。これら4つのオアシスが、散歩の途中に忽然と現れ、ひとときの癒しの時間をあたえてくれる。まさに、オアシスというわけである。
さて、この「知る区ロード探検隊」では、イベントに参加した者は、キャラクターであるすぎまるのバッジを付けているので、知らない者どうしが道で出会った時にわかるようになっている。そこで、カードをおたがいに交換して一枚の絵を完成させるイベントがある。ここで、どのカードが持っているか、どこら辺にチェックポイントがあるかなどの情報交換を行う。そして、一日がかりで、スタンプラリーを行うのである。集めたスタンプと絵の完成させ具合で、シルクという独自のお金と交換できるようになっている。シルクを貯めると、シルクショップで、すぎまるキャラクターがはいっている帽子やポシェット、文房具などと交換できる。最近では、杉並区の銭湯組合と協力して、ためたシルクを銭湯に持ってゆくとお風呂に入れるようになっている。ただし、これは、期間限定のイベントとなっている。
杉並区の行政と地域住民、それに商店などが一体となってまちづくりを行い続けて16年。決して派手ではないが、地域に根ざしたまちづくりの成功例として注目されるべきものである。

知る区ロード探検隊

知る区ロード探検隊

○美術館の設計者選定に、我が国で初めて「資質評価方式」が採用される。(高橋信裕)

これまで公共建築物の設計者選定は、「コンペ方式」が主流を占め、事業者の求める課題にそった設計案を競い合わせることで、設計者の選別を行ってきた。当然、その過程では、採用、不採用にかかわらず多くのアイデアが出され、図面作成に加え、模型の製作などの費用も参加者の大きな負担となっていた。こうした状況のもとで、横須賀市では、美術館の設計者選定に全国初の試みとして「資質評価方式」(QBS)を採用し、話題を呼んでいる。この方式は、アメリカでは広く普及しているとのことで、設計案を選考の主対象とする「コンペ方式」に対して、「資質評価方式」では、設計者の「人となり」と「仕事の進め方」が選考対象とされる。「人」を選ぶことで、コンペ方式のように採用案に縛られることもなく、事業者と設計者がゼロから議論し共同作業で理想の施設を作り上げていくことができる。横須賀市の美術館設計の選考(平成14年2月最終選定)では、3つのステップを設け、選考委員会(9名によって構成・委員長鬼頭梓氏)によって審査決定された。
第一審査では、過去に手がけた設計作品の書類提出(応募者数・96人)を受け、経験や実績を審査し10人程度に絞り込む。第二審査では、設計者本人に対する面接を行い、市の求める美術館に対する理解度や姿勢、能力を審査し、3人ほどに候補者を絞り込む。最終の第三審査では、実際の建築作品を実地に調査し、発注者や施設管理者らから使い勝手などの意見聴取を行い、「最優秀者」を選定し、その候補者と設計業務を随意契約で委託する。審査過程は一般に公開され、「山本理顕氏・横浜市」が選ばれている。(開館は2007年予定)

○神戸の土木博物館計画の支援組織「土木の学校(仮称)」が設立され、始動開始(高橋信裕)

「神戸文明博物館群構想」を掲げて計画を進めている神戸市では、その構想の先導的、中核的施設である「土木博物館(仮称)」の計画を土木学会の協力のもとで進めているが平成15年10月、その博物館の実現を目指し、実質的な運営の担い手を組織し、育成する市民団体「土木の学校(仮称)」を立ち上げた。
「土木博物館(仮称)」は、「アーカイブ」と「コミュニケーション」を基本理念とし、わが国の「土木のナショナルセンター」を目指すもので、企画、計画段階から市民の理解と協力を求め、地域社会と共生する博物館づくりを志向している。「土木の学校(仮称)」は、計画から竣工までの過程においては、土木に関する市民参加型の活動を継続、実施し、市民の間に土木への理解を深め興味を触発し、同時に博物館づくりの機運を醸成していくことを目的とし、また竣工後は、運営の主要な役割を担う支援組織としての役割が期待されている。神戸には、日本の近代化を象徴する多くの産業遺産が点在していおり、地域そのものを土木の博物館として、調査、見学、研究することなども可能で、パフォーマンス的なイベントと連携させることで、新たな神戸の文化・観光の資源開発につながることが期待されている。また、こうした計画と運営に学会組織である「土木学会」が参画している点も、興味深い。