○台湾で日台交流の博物館シンポジウムが開催(高橋信裕)
中華民国博物館学会が主催する国際交流シンポジウム「変貌する21世紀の博物館−新世紀における台湾と日本の博物館世界との交流に向けて−」が11月19日〜22日にわたって、台北市の国立歴史博物館で開催された。6テーマごとに台湾と日本の博物館関係者が発表しあい、共通の課題に対する制度の違いや取り組み方などについて、それぞれ議論がなされた。
6つのテーマと講演者は、以下の通りである。
(1)独立行政法人制度と国公立博物館
台湾サイド:江韻瑩(国立台北芸術大学伝統芸術研究所所長)
(発表概要)台湾では1998年の行政院による「政府再造推動計画(政府再構造推進プラン)」施行を機に民営化が進んだが、博物館の場合、成果は上がっていない。近年では、博物館運営の法人化も、現在国会で審議中の「行政法人法」のなかに組み入れられており、今後日本の事例を参考に現実的な取り組みを行っていきたい旨が報告された。
日本サイド:冨士野行良(独立行政法人国立博物館本部事務局企画管理室長)
(発表概要)日本における「独立行政法人制度」の概要説明につづき、法人化によって改善された点(業務運営の効率化、財務状況の改善、利用者サービス向上など)が紹介された。
(2)博物館評価
台湾サイド:廖桂英(中華民国博物館学会常務理事・鴻禧美術館副館長)
(発表概要) 台湾の博物館が規模、内容、運営主体において多岐にわたっている現状を紹介するとともに、博物館の活動のステージが、立地する地域社会との連携、支援のもとに、新たな展望が開かれつつあることを紹介。私立の地域美術館の可能性を自らの経験と活動を通しての報告であった。
日本サイド:布谷知夫(滋賀県立琵琶湖博物館研究部長)
(発表概要) 日本における博物館評価の経過と現状を報告し、「博物館評価は、外部から一方的に行われるべきではなく、博物館ごとに使命を確認しその使命の実現に向けて調査手法を設計し、内部評価と外部評価を同時に行うことで、効果が発揮される」ことの重要性を強調した。
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(3)文化行政、まちづくりと地域博物館
台湾サイド:陳郁秀(行政院文化建設委員会主任委員)
(発表概要) 台湾の行政院が提唱する「2008年への挑戦−国家発展に関する重要プラン」のなかで「各地域における文化会館(地域博物館)に関するプラン」が、現在実を結びつつあり、地域の資源と結びついた活発な活動が、観光産業の振興へとつながっており、地方自治体と地域住民、企業、団体との連携がますます重要視されるようになっている、ことが報告された。
日本サイド:法政大学教授
(発表概要) 日本の公立博物館の歴史を報告するとともに、まちおこし、まちづくりに地域博物館が果たす役割を日本の事例(野田市博物館等)をもとに報告した。博物館は、地域の価値の発見と創造、地域住民とのコミュニケーションを重視することによって、地域社会とともに発展、成長していくという考えが大切であることを主張した。
(4)千変万化の地域博物館
台湾サイド:黄世輝(国立雲林大学文化資源維護系副教授)
(発表概要) 台湾では地域博物館の振興は、「文化建設委員会」(日本の文化庁にあたる)が所管している。その指導の元に近年、文化会館(地域博物館)が各地に新設され、活動が活発化してきている。そのテーマも地域の伝統文化や自然生態を取り上げ、紹介する事例が多く報告されている。生涯学習の面から、また観光振興の面からますます文化会館が奨励されていくであろう、との見解が報告された。
日本サイド:阿部得二(徳島市阿波こくふ街角博物館運営委員会事務長)
(発表概要) 徳島市の国府に展開される「阿波こくふ街角博物館」(1989年開始)の歴史と現状を伝え、地域そのものをミュージアムの資源として展開するエコミュージアムの一例を紹介した。地域住民のボランティア精神から出発し、10年以上も維持されている事業の背景には、住民の熱意と連帯意識、奉仕精神が根強く存在し、出来ることを無理せずやってきたことが今日につながっていることなどが報告された。
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(5)新聞社と博物館との展覧会事業
台湾サイド:黄肇松(中国時報総管理処総経理)
(発表概要) 台湾の有力紙である「中国時報」と博物館イベントとの関連について、いまだその連携が十分なされていない状況とその課題が報告された。
また、こうした文化的な活動に対する政府の支援がなく、ハイテク分野での税制の優遇策のように、さらなる優遇策(現在入館料に20%の税金)が文化領域にももたらされるべきであり、公立の博物館の長の地位の低さも大いに問題にすべきである、との見解が述べられた。
日本サイド:多田俊明(読売新聞社事業局 美術館連絡協議会事務局長)
(発表概要) 日本での美術館の展覧会事業が、新聞というマスメディアを扱う新聞社によって担われているという現状を過去の著名な展覧会の事例をもとに紹介し、美術館と新聞社のコラボレーションの舞台裏を紹介。美術館の学芸スタッフによる学術的、専門的な能力の発揮、新聞社の担当者による観覧者の動員計画、マーケティング、海外の美術館との契約業務などのノウハウが報告された。
(6)21世紀における博物館教育
台湾サイド:林曼麗(財団法人 国家文化芸術基金会董事長)
(発表概要) 博物館の歴史を概観するとともに、近年の博物館に求められている課題に視聴覚メディアを採用し、また触れて体感することの出来る「参加体験型展示」の重要性と「学校教育との連携」をあげ、博物館固有の教育普及活動の可能性と展望についての報告がなされた。
日本サイド:染川香澄(ハンズオンプランニング代表)
(発表概要) 博物館を楽しむ、ということには、誰にも強制されずに「自由に気ままに行動出来る」ことが保証されるべきである、との持論をもとに「ハンズオン」の重要性を提唱した。また、博物館計画の段階で、利用者サイドにたった展示のありかた、普及事業のあり方など開かれた議論が、様々な立場の人々となされることが不可欠で、その過程を踏むことなくして、博物館の発展は望めない、との報告がなされた。
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